先生にインタビュー#2(奥田美樹さん、酒井理江さん)

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奥田美樹さん(左)
奥田さんは造形教室や、専門学校、幼稚園など様々な場所で美術、造形を教えてらっしゃいます。
酒井理江さん(右)
ご一緒にいらしたのでお話を聞きました。

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保育士を目指す学生さんに

こんなのもありますよ。(奥田さんが指導のための参考書のような本をたくさん持ってきてくださり、並べる。)
これは専門学校の、保育士になる人のためのもの。こういうのからいつもピックアップしてやってます。こういう本は、自分で選んで買ったり、与えられたり。
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子どもを豊かな心に育てるためには、「美術」って言うよりは、感情を表現したり、想像力を育てたりすることが必要ってことが段々解明されてきたから、学生さんには、保育士になったら「発散型の造形」を子どもたちに実践してもらうって感じです。
特に幼児期には、同じ学年でも出来る子と出来ない子の差がすごく出るので、どういう風に指導したらうまくいくのか、その子その子に応じた対応をするってことが大事。
私は造形教室もやっているから、子どもたちの今の状況がわかるじゃないですか。それをふまえて「こういう風にした方がいいよ」って伝えます。子ども達が美術に興味をもてるようなのびのびとした環境を作ってあげられる先生になって欲しい、っていうのが理想。
理想だから、なかなかね。

通っているのが保育園か、幼稚園か、で違う部分

そういう感じで、短大と造形教室とはなんか繋がってる。
「K造形」は30年以上の歴史がある造形教室で、でも私は6〜7年めぐらい。大きく「児童(小学生)」、「幼児」、「園内(幼稚園に行って授業する)」の3つのクラスがあります。

内容は一応、「発散する」ってことがメイン。
習わせてるお母さんたちは、「発散」が大事って分かってる場合もあるけど、例えば毎月7000円ぐらいお金を払うってなると、作品に結構完成度が出ないと満足しない。「こんだけで1ヶ月7000円も取るの?」っていうお母さんもいるわけですよ。
その中でも、保育園(※編集注:厚生省の管轄)に通ってる子のお母さんは、自分が仕事しててお金もいっぱいあるっていうのもあるし、「いつも手をかけてあげられない分、子どもにとにかく楽しんでもらいたい」っていう方が多い。だから、どちらかというと、完成度というよりは「楽しかった!」っていう子どもの笑顔とお話が聞けたらいい、っていうのがあると思う。
でも幼稚園(※文科省の管轄)に通ってる子のお母さんは、家にいることが多くて、「お稽古として上達していかないと」っていう感じ。子ども本人は絵はあんまり好きじゃかもだけど、もうちょっと上手になってもらいたくてやらせたり。
でも、そういうパターンは今はだいぶ少なくなってきたかな。やっぱりその子が興味があってやらせてあげる、みたいな感じも増えてきたと思う。

「発散」とはどういうこと?

発散して、楽しいからもっとやる!みたいな感じで積み重ね、っていうのが理想。
例えばすごくやんちゃな子は、絵の具もぐちゃぐちゃ〜!ってやって、先生達も汗だーだーで拭いたりとかで「すごい楽しかった〜!」って帰っていったり。
でも「ボンドがネチネチだから触るのが嫌」って子もいて、その子には、慣れさせようとして「大丈夫だよ、付いても拭けばいいんだから」って言ったんだけど、どうしても嫌で、他人にやらせようとして、「じゃあ先生が付けて」って言ってきた(笑)。「じゃあ棒あげるからこの棒で付けたら」って返したんだけど(笑)。
この間小学校上がったその子が来てて、丁度お母さんもいて「ちっちゃい頃から人にやらすんだわ」とかって(笑)。その子も「変わらんねー」とか自分で言ってた。いまだにのりは嫌いみたいだけど、造形は好きで続けてるの。
その子その子で全然違うね。
だから1人1人に対応するっていうのが今の教え方。
お母さん達も、「服汚れてすみません」って言うと、「いいですよ〜、教室だからできるので」って汚れて当たり前の様に言ってくれるお母さんもいたけど、以前は、「汚しちゃいけないからちゃんとスモックを着させてください」という方もいた。
だんだん大らかになってきてると思う。

子どもが成長している瞬間

子どもさんの表現が伸びてるなって感じたりするのはどういう時ですか?

のめり込むっていうか。
例えばその子がやったことに対して誉めると、その子は自分が「認められた」っていうことで自信がつくのね。そうすると、「今度もうちょっとこうしてみよう」ってなる。そうなると、「もっと誉められたい、もうちょっと良いものをつくろう」ってなって、また褒められる。
「見て見て」って言う話を聞いてもらうことでも、子どもはすごく発散してる。そういう時は、気持ちも技術も成長してると思う。
だけど、例えば家へ帰ってお母さんに「何これ?」って(つまむしぐさ)言われてしまうと、「お母さんに理解されなかった!」ってなって、「もうこんなのいらない」ってバーンって捨てちゃったりとか。

あるある。

幼稚園で、几帳面な子がいて、ほんと女の子って感じピンクが大好き。その子が画用紙いっぱいにハートを描きたかったのに、ちょっと汚れがついちゃったら、「もうこんなのやだ」って、それから不機嫌になってわざとお母さんの目の前でびりって破いたり。

そういう子理解できる!

なんか自分の思う通りにならなかったー!っていう気持ちと。何だろう、プライドとかちっちゃい子にもあって、そのようにならなければ私はだめだって感じがあって

この願いが届かないともう世界は終わった、みたいな。(笑)

それをどうやったらほぐせるかなっていうのが今は私の課題だけどね。

お母さんとのコミュニケーション

(宮川)じゃあお母さんの教育も大事ですね?

お母さんには、まあ「いろいろ褒めてあげてくださいね」っていう感じでは言うかもしれないけど、「こうして」とはあんまり言えないかな。多分声には出さないけど、「お金払ってるんだから、その辺は先生がやってよ」ていう所があると思う。
子どもの良いものを引き出して、「ここがよかった」っていうのを伝えたら、お母さんが「子どもが褒められた」って満足するぐらい。

教室では1ヶ月に1回、先生同士の会議があって、おすすめのレッスン案とかを持ち寄ったり。
他の先生とよく話すのは、「お母さんと仲良くなるといいよ」って。
お母さんはその子の性格とか好きな物とかを良く知ってて、教えてくれる。絵を描いてる時にこういうのは好き?みたいにイメージをふくらませてあげると話に乗ってきて、心を開いて、どんどんできる。そういうことは大事なのかなって。
1年に1回、絵本を作らなきゃいけないんですけど、そこにはけっこう内面が出てくることがあるから、そういうコミュニケーションをお母さんと取った方がいい。

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子どもが「鑑賞」するのによい環境は少ない

「園内」では鑑賞も必要なので、できた人から順に話を聞いたり、一人一人に先生が、「これは何を描いたの?」みたいに質問して、みんなの前で説明をしてもらったら、「できたね!」って褒めて拍手って感じ。小さいうちからそうやって人前に出て説明をする場所を作ってあげるというのも、その子が自分で思ったことを言葉で表現するっていう練習にはなりますね。
造形教室は1時間しかなくてあまり時間がないので、個別に「ここがいいね」とか。みんなの見本というかイメージがひろがるような良いのがあれば、「こういうふうにやった子もいるよ、すごいね!」っていう感じで紹介すると、その子は「みんなの前で褒められた!」ってうれしくなってどんどんやるとか。
周りの目も重要。

(宮川)子どもに対していわゆる鑑賞をさせることについてはどう思われますか?

世界の名作を見に美術館にみんなを連れて行くということはないですね。
多分小学校の中高学年ぐらいになってくると、教科書でもピカソやモナリザとかも出てくるし、「あ、昔の人はこういう絵描いたんだ」って見ることもあるのかなと思いますけど。

なんか絵本が最初の絵画みたいな感じします。
小学校のときそんなの(名作)全然知らないですもんね。

うーん、興味は持つと思うんですよね。
私、荻須美術館でも年に1回やってるんだけど、毎年何回か小学校が鑑賞に来て、講座をやってるそう。名画の前でスケッチしたり、色について「こうだよ」って話をしたり、「日本画って知ってる?」みたいな話をしたり、「油絵はこうなんだよ」って。
でも幼児だと、静かにしてることと、あとみんなを一緒に連れて行くってことが問題。同伴する先生が、「触っちゃいけないよ」って言って、分かる子もいるけど、「わーっ!」て走っちゃう子もいるから、鑑賞より管理の方が大変かもしれない。そこまでして、効果的な刺激になるかといったらどうなんだろう?
素材に触ってもいいとか、光とか感覚的に体感したりできる展覧会とか、何かそういう場所があったらいいのかな、とは思う。あまりそういうとこは無いですよね。

アトラクションみたいになってるといいのかな。
東京オペラシティでヴェルナー・パントンの展覧会やってたんですけど、会場全体が宇宙みたいな感じで、ああいうのだったら、子どもには異空間みたいでおもしろそうな気がする。
絵だけぽんぽん見るだけだと、ちょっと距離感があって、集中力に欠けると思います。

児童総合センターで「遊びの造形」みたいな感じで、子どもたちが体感するようなことをやったりとかもあるけど、そういう環境や場所はあんまりないかもしれない。
(2014.5.22)

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