先生にインタビュー#8(熊倉知己先生・美浜町立河和小学校)

kumakura_s熊倉知己先生
小学校の先生をやりながら大学でデザインも学んでいらっしゃる熊倉先生には、「図工の思い出展②」に参加もしていただきました。小学校の図画工作の授業についてを中心にうかがいました。

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大学で図工を選択して小学校の先生になるまで

宮川/熊倉さんの専門科目は図工ということでいいんですか?
熊倉/初めの大学では特に専門はなかったんですが、教職に就いてから後に中学校美術の免許を取得しました。もともと美術や図工には興味があって、初めの大学でも図工を選択しました。「五味太郎の世界」みたいな感じで、絵本の研究で卒業論文を書きました。大学を出てから教職にはすぐ就かず、アパレル業を2年間やって、それから小学校の講師の話が来たのでやりはじめ、採用試験を受けながら、ようやく29才で合格したという感じです。
いま学校は3校目。最初講師の話がきたのは、三河の高浜です。かわら美術館とかがあるところです。採用されたのも同じ学校で、知多に移ってきたのは3年前です。
宮川/小学校で「講師」というのはどういうことになるんですか?図工だけやってくださいとかですか?
熊倉/非常勤講師と常勤講師があります。担任の先生はいるんだけど、専門の時間はクラスを2つに分けて少人数制で教えたり、いろんな学年に行ったりします。常勤は担任とほぼ同様の仕事をします。

初めは成績のつけ方がわからない

宮川/小学校なので全科目やるんでしょうけど、いかがですか?
熊倉/初めはやっぱ評価の仕方が分からなくて、指導書を見ながら先輩などに聞いて評価しました。観点別に評価の仕方を書いた指導書または評価基準表があるのですが、それを見ても具体的には書かれていなくて。
宮川/それって学習指導要領的なやつですか。
熊倉/そうです、学習指導要領に基づいて、指導書ができてて。
宮川/そういうのがあるんですか。
熊倉/そうなんです。教科書の先生版。先生たちは見て授業の展開を考えたり評価に使ったりします。
宮川/どれくらい参考にするんですか。
熊倉/うーん、成績を付けたりする時とか。
宮川/誰さんの、今学期の評価は、となった時、何でつけるんですか、「優・良・可」ですか。
熊倉/学校によってもちがいますが、小学校の多くは3段階が多いです。細かくは「A・B・C」や「一重丸・二重丸・三重丸」などです。一重丸だと「がんばりましょう」みたいな。
宮川/△とかは?
熊倉/その学校では一重丸が「がんばらなきゃっ」でしたが、△のが「がんばらなきゃっ」て思いやすいかも知れませんね。
宮川/A・B・Cが1人の中にいくつかあって、総合的に二重丸だな、とか。
熊倉/はい、それが学期末にある評定です。観点別にいろいろあるんですけど、図工だったら「関心・意欲・態度」で、1つの項目で。もう1つが、「創造的な技能」、「表現の工夫」、あとは「鑑賞、評価の仕方」とか。でも初めは評価の仕方がわからなくて、指導書、評価基準表、先輩の先生方に聞きながら何とか評価をしました。

図工での評価の方法

熊倉/「創造的な技能」は、テクニック的なことで、雑に描いたり作ったりしてしまっている、対象となる作品の形や色が表現できていないのはBまたはCかななどと考えて評価します。
「表現の工夫」は、他の人とはちょっと違う表現というか。でも突拍子的な変わったのを作っていても、技能が伴っていないとAにはならない、みたいなところはあります。技能的なところは、「ここはこういう風に描けばいいよ」と教えないと表現の工夫が引き出されてこないので、具体的に言ったりします。
「鑑賞、評価の仕方」は、感じたことを発表したり、ワークシート、プリントを用意したりして評価します。その子が何かを見て感じたことを文字に表すことでその子の鑑賞の能力が分かる部分があります。ただ、文を書くのが苦手な子が文字として表せなかったら、Aがつかないという難しい部分もあります。
宮川/難しいけど、そこは大事な所ですね。うわーっと思ってても書けないってなるとだめなんですね。
でもいきなり感想を書けと言われても困りますよね?
熊倉/そうです。発達段階もありますが、鑑賞では「誰々君のがすごいと思った」とか「真似してみたい」では鑑賞仕切れていないと思います。これ、学年や取り組む学習にもよりますが、「友だちの作品の首の部分が長く描かれていて、迷路みたいでおもしろかった」とか、「キリンの首がホースみたいだった」とか、ちょっと何か他の物に「例え」として書いてあると、よく見ているなあと思います。ただ子どもたち的にも、慣れてないと言葉が出てこないという所もあるので、こちらが「『何々みたい』とか、『なんとかのようだった』とか、比喩的な言葉を使うといいよ」、というように例を用意してあげます。そうするとけっこうたくさん書けるようになりますね。
他に忘れ物とか、授業中の取り組む姿勢も「感心・意欲・態度」の評価には入りますね。

年齢や発達段階のこと

宮川/妖怪ウオッチが流行っていますけど、そういう話題は教室まで届きますか?
熊倉/今は5年生なのでおおっぴらには言わないですね。あれは3、4年生ぐらいまでかな?見てる子は見てるけど、「昨日見た?」とかは言わないです。
宮川/5、6年生ぐらいが対象かと思っていました。
熊倉/5年生は背伸びして「ドラマ見た」とか「アナ雪見た」とか、言ってますよ。見てないと話題についていけない、みたいな感じです。僕は見てないんですけど。
宮川/少し大人になりかけみたいな感じですね。そういえば5、6年生位で図工の好き嫌いが出たりしませんか?
熊倉/ありますね。自分は下手という意識が強くなってくるのが5、6年生ですね。友だちのを見て、「あの子はすごいな」とか「私のは…」って自信をなくしかけている子もいます。
宮川/微妙なお年頃ですね。他の学年はみたことありますか。
熊倉/2年生以外は全部担任させていただきました。

一緒になって作ります

宮川/1年生は幼稚園みたいじゃないですか。
熊倉/おもしろいですよ、1年生の図工。
1、2年生に生活科というのがあるんですけど、生活科の時間と図工をちょっと関連させて、1年生の学習でデッサン的にそっくりそのまま模写するようことを取り入れたんです。大根を描くよ、って。大根はここからスタートするよ、ここから葉っぱが出て、どういう風に筋が出てる、くっついてる、とか言って。何も言わないと2、3枚で終わっちゃうんだけど、ここからスタートして、1枚目はここから出ていって、2枚目は後ろから出ているんじゃない?とか話してやってったら、ものすごい作品ができて。それを鉛筆だけじゃなくてさらに油性ペンでなぞったらはっきりして、他の先生方にも「1年生の大根すごい」とお褒めの言葉をいただきました。1年生は指導したらそれを素直に聞き、がんばろうとするような吸収力がすごいです。
宮川/ただ「よく見ろ」と言うだけじゃなくて、一緒になって。
熊倉/そうですね。土の所はどういう風にふくらんでいるだとか、石があるよねとか、イボイボがとか、穴が空いとるとこが窪んでて毛が出ているとかね。そうやっていくと、とても時間がかかるんですけど、おもしろいですね。
宮川/見るってそういうことだと思います。

セット教材のこと1

宮川/いろんな人に聞いているとキットという問題がよく出てくるんですけど、いかかでしょうか。聞く所によると、すごくよくできていて、指導案もついてて45分でちゃんと終われるようになっていて、と聞いたんで。それはそれで便利かなと。
熊倉/そうですね、キットいいですよ。似たり寄ったりになっちゃう所はありますけど、方向性がずれていかないので、その中でちょっとずつ、それぞれの個性が出てくるかな。
宮川/限られた中で何か違うものを作れ、というのも工夫ですよね。
昔の人だと、おもちゃの車を作ろうという時、自分の家からお菓子の箱を持ってきたりするので、その段階から全然違うじゃないですか。それなのに、今はみんな同じ形で、とか聞きまして。そうなんかなーと思いまして。
熊倉/先生は子どもたちがそれぞれ違う材料を持ってきた時の方が大変ですね。「ペットボトルの蓋でタイヤをつくりたいんですけど」と言う子もいれば「発砲スチロールで」となったら、その時点で指導が変わってきますもんね。でもそれぞれ違うのは見ていてもおもしろいですね。

セット教材のこと2

宮川/セット教材の授業は例えばどんな感じですか?
熊倉/いろいろあるんですけど、キットでは、ぷーっと息を吹き込んだら、中のビニール袋がボーンと膨らんでくるびっくり箱みたいなのとか。その袋に絵を描いたりして。
宮川/図に書いてもらっていいですか?想像がしにくいんですけど。
熊倉/箱があって。厚紙の箱なんですけど、これに穴をあけて、ストローを。
宮川/ティッシュケースぐらいですか?
熊倉/はい、蓋が開閉できるようになってて、この中には長細いビニール袋が2つぐらい入っとるんですよ。それに顔とか描いて膨らますと、しわくちゃのやつが、ボヨーンと出てくる。1年生はまず、厚紙から箱を作ることが大変なんですよ。
宮川/まだノリとかも思ったように使えないですよね。
熊倉/これは、それぞれのお菓子の箱でも、できないことはないですね。でも現場ではキット頼りのところが多いです。
教材業者がもってきてくださって「じゃあこれとこれを注文しよう」とか、「これは図工室に材料があったからこれは買わないで指導しよう」とか、学年の先生と相談して購入するかを決めます。版画とかも印刷用紙と版になる板、全部セットになってるキットがあるけど、例えば4年生だったら、別々に買えばセットで買う必要もないのかなって思ったりもします。

図工の教科書のこと

宮川/教科書は使いますか。教科書が薄すぎるとか聞きますが。作品は載ってるけど、段階が載ってないって言う方がいて。
熊倉/それはありますね。すごいわかります。完成品はたくさん載ってるんだけど、例えば彫刻刀の使い方を示してるコーナーが左隅の方に本当にちょっとあったりとかしますけど、それだけではできない。それに至るまでの過程とかは、その先生がもっている技能とか知識で指導が変わってきてしまう部分もあります。そこで多分うまく作品ができずに図工が嫌いになってしまう子が出てくるのかもしれません。ほめ方にも差が出てきてしまうと思います。
宮川/そうですね。

地域による特色や先生用の本のこと

宮川/三河とか知多とかあの辺の、他の地域と違う独特の何かってありますか。
熊倉/「知多カリキュラム」っていうのがあるかな。学習指導要領を受けてのカリキュラム、その知多半島版のがあるんですよ。
指導要領を1回1回細かく見るのも大切ですが、初めに知多地方教育計画案(知多カリ)を参考にします。順番としてはまず指導書、もっと系統的な部分は知多カリ、もっと細かくは指導要領って感じですかね。

図工以外のことで

宮川/図工以外の時間に困ることありますか。先生的に。
熊倉/子どもたちは図工、体育、音楽の時間が好きな子が多いんです。図工よりも「算数嫌い」っていう子の方が多いかな。体育が一番人気。体育が上手くやれる先生はクラスがまとまりやすいとか思うことがあります。
授業をおろそかにしたり、極端に授業の内容が遅れていているクラスは、生活面でも子どもたちがの気持ちが荒れたり先生に不信感をもったりとかがあります。子どもたちの生活の様子、クラスの様子で教員として評価される面もあれば、「先生は授業で勝負でしょ」みたいに見られているところもあります。子どもたちを引きつけられる授業力をつけたいです。

(2014.7.21)

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